出身地:福岡県 勤務先:埼玉県さいたま市・認可保育園 保育園勤務歴:認可保育園 園長先生歴:3年 趣味:マンガ(少年ジャンプが大好き!)、鉱物・宝石収集(艶々でキラキラの石が大好き)
ー伊藤先生が、保育士を目指したきっかけを教えてください。
結婚するまでは、看護師として約9年間働いていました。小学生のとき、病気で2週間ほど入院したことがあるのですが、そのときお世話をしてくれた看護師さんがすごく素敵な方で。「将来は看護師になりたい」と思い、高校卒業後に地元九州の看護学校に入学し、結婚するまでの約9年間は主に慢性疾患を専門とする病院の看護師として関東で働いていました。
私自身は一生看護の仕事をしていくんだろうなと思っていたのですが、結婚した主人の家業が保育園経営だったことで、保育士へのキャリアチェンジを決意。保育科のある短大に入学し、保育士資格を取得しました。
ー憧れの職業だった看護師から保育士に職を変えるにあたって、葛藤はありましたか?
それが、まったくなかったんですよね。保育士になるなんて思ってもみなかったから、「新しいことにチャレンジができるんだ!」と好奇心でワクワクしました。それに保育士なら、看護の経験や知識も活かせそうだな、と。
短大に入学したときの年齢は30歳。まわりは、高校を卒業したての10代ばかりでした。隣に座った子なんかは、最初の頃ずっと私に背中を向けていました。後で聞いたら「やばい。この人絶対年上だ」って思っていた、なんて話していて! 同級生たちからは、「姉さん」と呼ばれていましたね(笑)。あの頃仲良くなった子とは、今も仲良しなんですよ。
その後、無事保育士の資格は取れたものの、短大卒業と同時に妊娠していることがわかって。出産後しばらくは育児に専念し、子どもが少し大きくなってから、義実家が経営する保育園や学童でパートを始めました。
ー保育士として働き始めた当初、印象的だったことを教えていただけますか。
本格的に保育士として働き始めるまでは、「これまで病気の人たちを何人も受け持ってきたんだから、健康な人なら何人でも相手できるだろう」と思っていたんですよ。でも、元気いっぱいの子どもたちを何人も相手するのは本当に大変でした……。
私があたふたしている間に、先輩たちは子どもたちを楽しませながら、テキパキとまとめ上げていくんです。「これがプロの仕事なんだな」と力の差を痛感しましたね。
今でも保育の知識や経験でいうと、新卒から保育士を続けてこられた方には到底かないません。でも、看護師時代から今にいたるまで、私にもこれまで培ってきた人生経験があります。保育は、一人ではなくチームで行う仕事です。だから、お互いが持つ経験や知識でサポートし合って、協力しながら働けるのは嬉しかったですね。
ー「これまでの経験が活きたな」と思ったエピソードを教えていただけますか。
加配のお子さんの担当を任せていただいたときですかね。私自身、子どもが幼少期に発達障害*の診断を受けました。当時、私たちは夫の都合でカナダに2年ほど滞在していたので、カナダと日本で専門病院を何軒もまわったり、勉強会に参加したりしていたんですよ。そのため、保育園内でも発達障害の特性について、私から先輩たちに教えることが度々ありました。
そうしたら、パート勤務ながら加配保育を任せてもらえるようになりました。でも、発達の程度も性格も人それぞれなので、子どもたちとのコミュニケーションには苦戦しました。なんとか話を聞いてもらうために、子どもたちをよく観察して。例えば、耳で聞くよりも目で見た情報の方が理解しやすい「視覚優位」の特性のある子には、絵を使って教えるなど、できることを一つ一つ試していきました。それまで担当してきた子に卒園証書を渡すときは、本当に感慨深いものがありましたね。
ー約10年間保育士として働いてきて、特に嬉しかったエピソードを教えてください。
たくさんありますが、ひとつあげるとしたら先生と子どもたちとの間につながりを感じられた瞬間ですかね。日々の生活はもちろん、運動会やおゆうぎ会など、イベントを重ねていくうちに、信頼関係が築かれていくんですよ。
職員はお父さんやお母さんにはなれないけれど、子どもたちとの間に絆をつくることはできます。第三者との絆は、今後成長して社会の一員として生きていくための「根っこ」となるもの。それを大切に育てるのが、私たちの役目だと思っています。だから、クラスが一つにまとまって、子どもたちとの絆を感じられた瞬間は、本当に嬉しいんです。
ー伊藤先生は、3年前に園長になられたのですよね。保育士から園長になった経緯を教えていただけますか。
もともとは、保育経験が豊富な義理の母が園長をしていました。でも、年齢と共に園長業務を続けることが難しくなってきて、「私が園長になることで、義母や子どもたちの助けになるのなら」と家族に相談し、園長に就任しました。
私は約10年間保育士をしていましたが、そのほとんどがパート勤務です。園長は、業務内容も責任もまったく違う、ゼロからのスタート。経験豊富な職員たちに助けられながら、なんとか3年間やってこれました。
ー園長としての3年間で、チャレンジしたことはありますか?
保育園は、何よりも「子どもファースト」であるべきだと思っています。子どもたちの心と身体の健康を守り、育てるのが職員の仕事です。そのためには、日々子どもたちと向き合う職員も、心身ともに健康でなければいけません。子どもファーストを貫くためにも、職員が健康に、気持ちよく働ける環境づくりを目指しています。
例えば、職員と園長で、1対1で話す機会を定期的に設けています。不安や悩みがあれば遠慮なく打ち明けてもらい、私はもちろん、必要であればチームや園全体で解決策を考えるようにしています。また、休暇も気軽に取れるようにしています。疲れた身体を休めるためだけでなく、「推し活」のための休みも大歓迎です! プライベートが充実すればするほど、仕事も頑張れますからね。
その効果かどうかはわかりませんが、ここ2年間で常勤職員の退職者はゼロ。職員の働きやすさのため、まだまだ改善すべき点はたくさんありますが、今後も工夫し続けたいですね。
ー園長として、今後挑戦したいことはありますか?
今年で園長3年目ですが、やっと「園長先生」と呼ばれることに慣れてきたところです。今も、ベテランの先生たちに助けられていることばかりで、園長としては発展途上。挑戦したいことというよりも、園長として身につけなければいけないこと、やらなければいけないことが、まだまだ山積みです。
ただ、「現状維持は後退」だと思っているので、日々勉強しながら少しずつでも前進していきたいですね。子どもたちはもちろん、親御さんにとっても、職員にとっても、楽しく安全に過ごせる保育園をつくっていきたいです。
ーありがとうございます。最後に、保育士を目指している方に向けてメッセージをいただけますか。
異業種から保育士になったからより実感しているのですが、保育士さんたちみんな優しいんですよ。それは、子どもたちの笑顔を一番に考えているからだと思っています。もちろん園生活の中では、優しいだけではうまくいかない場面もあります。でも、その厳しさの根本には「子どもたちが安全に、笑顔で過ごしてほしい」という共通の想いがあります。だから私は、保育士という仕事が楽しくてしょうがないんです。
保育士が気になっている方は、ぜひ飛び込んでみてください! 一緒に働く仲間は、優しい人ばかりですから。
(取材・文:仲奈々、撮影:中村隆一、編集:ホイシル編集部)
* 病名などの固有名詞は障害と表記しています