出身地:東京都調布市 勤務先:東京都多摩市・認可保育園 保育園勤務歴:私立保育園 園長先生歴:5年 趣味:人と話すこと、サッカー(週末は少年団のコーチ)
ー鈴木先生が、保育士を目指したきっかけを教えてください。
子どもが好きだったこと、そして憧れの先生がいたからですね。
親に僕が子どもの頃の話を聞くと、よく近所の自分よりも小さい子を集めて遊んでいたそうで(笑)。3人兄弟の末っ子だったので、弟や妹のお世話をするのに憧れていたのかもしれません。それから中学生になって将来の進路を考えたとき、「子どもと関わりたい」と先生に話したところ、「保育園の先生はどうか」と勧められて。当時の僕は、「保育園の先生=女性」だったので、男でもなれるのかと衝撃を受けました。
同時に、当時僕がお世話になっていたサッカークラブの先生は、普段は幼稚園で働いていると言っていたな、と思い出しました。日中は幼稚園の理事長をして、午後は課外授業で子どもたちにサッカーを教える、パワフルな男性の先生だったんですよ。
身近に男性で憧れの先生がいたこと、そして子どもが好きだったことから、高校卒業後は保育科のある短大に進学しました。その後、縁のあった保育園で働くことに。現在、僕が園長をしている保育園と同じ系列の園ですね。
ー保育士として働き始めたときのことを教えていただけますか。
1年目の頃は、大変なことのほうが多かったですね。子どもは好きだけど、「好き」って気持ちだけではダメなんだな、と思うことがたくさんありました。子どもたちに負けないくらい全力で一緒に遊んじゃって、先輩たちから「安全あっての保育でしょ」と注意されることもよくありました(笑)
ー特に大変だったことはありますか?
「子どもと仲良くなるのは得意だ」と思っていたのに、まったく懐かれなかったことですかね。保育士1年目で、2歳児クラスを任せていただいたんですよ。6人中2人が女の子だったのですが、当時は今以上に男性保育士が少なかったからか、その子たちからすごく怖がられてしまって。ご飯のお手伝いや寝かしつけはもちろん、朝の登園時も僕がいると泣いてしまう。最初の頃は、どうしたらいいか分からず途方に暮れていました。
でも、そんな僕を先輩たちが根気強くサポートしてくれて。その支えがあったから、僕なりに子どもたちと向き合えていたんじゃないかな。どんなに泣かれても嫌がられても、「僕と遊ぶと楽しいよ!」と必死にアピールし続けましたね。そうしているうちに、親御さんから「最近家で楽しそうに聡さん(鈴木先生の保育園での愛称)の話をするんですよ」と聞くようになって、気が付いたら「僕だから嫌」と言っていた子どもたちが「僕だからいい」と言ってくれるようになって。もう十年以上前のことですが、すごく嬉しかったのを今でも覚えています。
その子たちが卒園するときは、親御さん以上に僕が号泣しましたね。嗚咽(おえつ)で挨拶すらできなくて、子どもたちからは笑われてしまいましたが(笑)
ー鈴木先生にとって、保育士はまさに天職だったのですね。
でも実は、一度保育士を辞めているんですよ。保育士に憧れるきっかけとなった先生がサッカーを教えていたから、僕も子どもたちに運動を教える先生をやってみたかったんです。スポーツクラブに転職して、幼稚園で体操を教える仕事に就いたのですが……子どもたちと関わる時間が、ものすごく減ってしまって。それがすごく寂しかったんですよね。結局、1年で同じ保育園に戻ってきました。そのときに、僕は子どもたちと一緒に過ごす時間が好きなんだな、と気づきましたね。
ー最初の保育園では保育士として十数年間子どもたちと過ごし、5年前に系列園の園長に就任されたんですね。
保育士になってから、本当にいろんなことがありました。大変なことも多いですが、子どもたちが成長して卒園していく姿を見ると、すべてが報われた気持ちになるんですよ。卒園した後に、ふらっと遊びに来てくれる子も多くて、保育園は「安心できる場所」と思ってくれているのかな、と誇らしくなりますね。
あと、最近ものすごく嬉しいことがあって。僕が保育士になってから一番最初に卒園を見届けた子がうちの園に保育士として就職したんです!
小さい頃のその子は、自分の気持ちを伝えるのが苦手でした。当時の僕はまだ保育士になったばかりの新人だったけど、彼と向き合おうと必死で。お母さんとも、よく話しましたね。「小学校になかなか馴染めなくて」と言って、卒園後もよく保育園に遊びに来てくれていました。そんな彼が、「保育士になって、聡さんと一緒に働きたい」と言いに来てくれたんですよ。
ーそれは、ものすごく嬉しいですね……!
少し話がそれるのですが、僕には二人の息子がいます。すでに卒園しているのですが、今でも僕ら家族にとって保育園は「癒しの場所」なんですよね。ちょっとしんどいことがあったときに、ふと立ち寄りたくなるというか。先生たちの顔を見ると、ホッとするんですよ。
僕自身が保育園に助けられてきたから、僕が運営する園も、園児や保護者を癒せる場所にしたいと思っています。だから卒園後も園に遊びに来てくれると、「僕がやってきたことは、間違ってなかったんだな」と嬉しくなりますね。
ーいつでも帰れる場所があると思うと、安心しますよね。保育園をそんな場所にするために、園長として意識していることはありますか?
子どもたちには、「いつでも保育園に遊びに来ていいからね」と言っていますね。あとはそうだな……職員にはよく、「挑戦し続けてほしい」と言っています。
僕は新人の頃、本当に情熱しかなかったんですよ。知識も経験もないのに行動力はあるから、空回りしていることも多かったと思います。でも、注意こそすれど、とがめる人はいなかった。僕の挑戦をサポートしてくれる先輩ばかりだったから、今の僕があると思っています。だから、僕と一緒に働く職員も、したいことがあるならどんどんやってほしい。実際に、うちの園ではSNSで育児情報を発信したり、運営にコドモンなどのICTツールを導入したりと、職員が「やりたい」と声をあげたことは積極的に取り入れるようにしています。
ー園長先生として、今後挑戦したいことはありますか?
子どもの頃に憧れていた理事長のように、いつか園児たちにサッカーを教えたいですね。午前中に園長業務をして、午後は親御さんが迎えにくるまで園庭でサッカーをする。保育園は幼稚園と違って、送迎の時間がご家庭によって異なるので難しいとは思うのですが、実現したい夢のひとつです。
なんにせよ、「園長」という肩書きではなくなったとしても、何かしらの形で子どもと関わる仕事はし続けるだろうなと思っています。それくらい子どもたちとの関わりは、僕の生活の一部になっているんです。
ーありがとうございます。最後に、保育士を目指している方に向けてメッセージをいただけますか。
保育士ほど、情熱を持って子どもと関われる仕事はそうそうないと思います。まだ言葉が話せない0歳児から、親よりも長い時間を一緒に過ごすこともあります。一日に何時間も、そして何年も子どもたちと向き合うから、気持ちとしては家族に近いんですよね。だから、子どもたちが卒園するときは本当に寂しいし、遊びに来てくれたときは嬉しくて仕方がないんです。
こんなにダイレクトに人と人とのつながりを感じられる仕事は、僕は保育士しか知りません。だから保育士が気になっているのなら、ぜひ挑戦してほしいですね。
(取材・文:仲奈々、撮影:中村隆一、編集:ホイシル編集部)