出身地:東京都千代田区 勤務先:東京都小金井市・小規模認可保育園 保育園勤務歴:千代田区公立保育園、私立保育園など歴任 園長先生歴:7年 趣味:歌を歌う、友人とハイキングをしながらおしゃべり
ーArkゆめの保育園をご自身で立ち上げ、園長になられたそうですね。それまでの経緯を教えてください。
学生時代は音楽大学で声楽を専攻し、ミュージカルやオペラをやっていました。 子どもが好きだったので、この頃から保育士の資格をとりたいとは思っていたのですが、保育士になったのは30代になってからです。 20代は某パン業界の事業部長の秘書業務、新しい店舗やチョコレートのブティック立ち上げなどをしていました。
その後、甥っ子が生まれたことがきっかけで子どものことをもっと知りたいと思うようになり、退職して保育の道に進みました。 無認可の保育園で資格なしで働きながら国家試験を受けて保育士資格を取得しました。途中、母の介護などで離れた時期もあるのですが、認証保育園、公立保育園、私立保育園…と複数の園で働き、Arkゆめの保育園を立ち上げたのが2018年です。
仲間と協力して裏方としてなにかをつくりあげるのが好きで、舞台、店舗、そして保育園へとつながってきたように思います。
ー園を立ち上げられたのはなぜでしょうか?
保育士だったら、一度は自分の園を立ち上げたいと考えるんじゃないでしょうか。 複数の園で働いてきましたが、どこにいても「理不尽だ」と感じることがありました。 それについて、家族からも「じゃあ自分で園をつくれば?」と背中を押され、一念発起して立ち上げました。私は、漠然と入ってのめり込むタイプなので……(笑) ちょうど自分のなかで、「こういう保育がしたい」ということが見えてきたタイミングでもありました。
ありがたいことに仲間にも恵まれて、開園のときに「一緒に保育がしたい」と集まってくれた職員がほとんど入れ替わることなく、同じメンバーで7年目を迎えました。今回、「すてきな園長先生」なんてタイトルでインタビューを受けていますが、私がすてきなんじゃなくて、ここは職員がつくってくれている園なんですよ。
ー職員の入れ替わりがないのはすごいですね! その秘訣を教えてください。
想いや気持ちが同じ方向を向いていたのかな。 開園前から職員が集まってわきあいあいといろんな話をしました。 職員全員で19人の子どもを育てたい…という想いのもと、どんな些細なことも園長ひとりで決めることなく、正規職員もパート職員も隔てなく、みんなで話し合って決めてきました。細かいところでいうと、たとえば掃除の仕方など。 みんな経験してきたことが違うので、嘔吐処理、トイレ掃除…など場面ごとに職員全員で打ち合わせをしてみんなが納得のいく掃除の仕方を決めていきました。掃除に使う洗剤や掃除道具などのコストも考え、経験を出し合って……。 保育が大事なのはもちろんですが、こうしたベースの部分もおざなりにしないように丁寧にしたかったんです。
ー保育において大切にしていることはなんでしょうか?
職員全員で19人の子どもを育てるために大事にしていることは「共有」です。子どものことで「知らなかった」ということがあるのがイヤなので、全員で共有できるように徹底しています。ここも、正規職員もパート職員も同じです。
あと、私たちが大切にしているのは基本的生活習慣を遊びのなかで身につけること、お母さんたちと一緒に子どもたちの「こころのねっこ」を育てることです。 子どもっていっぱい遊べばいっぱい食べるし、いっぱい寝ます。寝たらまた復活して元気に遊んで、そうして健康的な体ができていきます。そのうえで、お外から帰ったら手を洗う、いただきます、ごちそうさまなどの生活習慣を伝えていきます。こうした基本的生活習慣を伝えていくには、保育士の専門性が必要です。食事、睡眠、愛着、どれひとつとってもどういう風にもっていくか、保育士じゃないとできないことがあります。文字を教えたり、英語を教えたりといった「お教室」のようなことはしません。
ー園長として大切にしていることはありますか?
「みんなで決める、みんなの意見をきく」ことです。 ひとりで決めることっていうのはほとんどないですね。特に保育のことに関しては、みんなの意見を必ずきくようにしています。 きちんと意見をきけば、こちらから求めなくても意見されるようになります。しっかり意見交換ができているからか、職員一人ひとりが寄りそおうとしてくれています。そこまで全部はできないけど、ここまではできるよ、と中間地点をつくってくれるのは、たいてい職員のほうです。
また、働き方の面においては、子どもから離れて休憩がとれる環境を確保しています。保育は人対人の仕事です。自分が疲れていたら楽しめないし、子どもから離れないと休憩になりませんから。
ー和田先生が保育でやりがいを感じる瞬間を教えてください。
単純ですが、子どもたちの成長を見られた瞬間にやりがいを感じますね。ミルク飲んだね!ごはん食べたね!という日常のできごとや、まだ言葉が出ないのに信頼関係が見えたとき、そして保護者と一緒に子育てをさせてもらっていると感じたときなど……言葉ではうまく説明できないのですが、私は心でしか動けないタイプなので、感情を動かされ、心が満たされたときにやっててよかったと思います。 0歳から2歳までの3年間を一緒に過ごした子どもたちが卒園して巣立っていくときは苦しいです。苦しいけど、子どもたちは愛情をかけた分…いや、その何倍も返してくれます。 3歳の卒園後に他園にいった卒園児の保護者が、姉弟で別々の園になるにも関わらず「0歳から見てもらうならArkさんにお願いしたい」と、下の子をうちにお任せくださったときは一緒にお姉ちゃんの子育てをした2年間の気持ちが伝わったんだとうれしかったですね。同じ園だったら送迎も一か所で済むのに、大変でもうちに任せたいと思ってくださった気持ちに感動しました。 そのご家庭の上のお姉ちゃんは、6歳で他園を卒園するときに「将来は保育士になって、Arkゆめの保育園で働きたい」と言ってくれました。もう下の子も卒園しましたが、こういうことがあるとやっていてよかった、園を立ち上げてよかったと思います。
ー今後の保育人生の展望は?
この職員たちと歩んでいくこと。そして、いつか3、4、5歳児までの園をもつことですね。 2歳児での卒園は、保護者も子どもも不安定になります。特に環境の変化に弱い、障害のあるお子さんや成長がゆっくりなお子さんはなお一層です。少子化で空きがある園も多いなか、3、4、5歳児を増やすのは難しいことで、夢のまた夢ではあるのですが、2歳児で卒園してしまうのが心苦しく、できることならば入学まで寄りそいたいと思っています。
ー保育士を目指している、または目指すべきか悩んでる人へメッセージをお願いします。
私は、保育一本で来たわけではありませんし、すごい目標をもって保育士になったかといったらそうではありません。なので、おこがましいことは言えないのですが、「子どもが好き」というところはブレていません。もし、子どもが好きだ、子どもに興味があるというならば、保育士はすてきな仕事です。 国家資格が必要で、専門性が高く、けっしてかんたんな仕事ではありません。だけど、返ってくるものは大きい仕事です。 この子がどう育つか、次なにをしてくれるか、その子のことを考えて保育をしたら、その100倍のものがかえってきます。 子どもが好きだというブレない気持ちがあったら、ぜひ保育士になってください。
(取材・文:山口美生、撮影:中村隆一、編集:ホイシル編集部)